ラブモメント
「げんさん、ちょっと話、いいかな」
この男から話しかけてくるなんてどういうことだろうか。まさかメンタルの相談ではなかろう。私はめんくらった。
この男とは、衝突を未然に防ぎあってる関係だと私は認識している。同じ穴の狢であることは否定のしようがないが、同族嫌悪という言葉もある。そもそも私に同じ穴の狢と思われたら彼は不服なのではないだろうか。そして、向こうもそう思っているような気がする。私は不服ではないが。
「あのさ」
ものすごい空白である。否応なく重い空気を感じたらされる。これは彼の演出だろうか。どちらにせよ言いようのない説得力がある。
そんなことを考えていると、理解より先に「あっ」と不意に声が漏れた。全てがその一瞬で分かってしまった。そうか。エリか。
いつか別れの日が訪れることは覚悟していたが、まさかこんな形とは。声を荒げて喚き散らしたりした方が彼は楽だろうか。こんな時にそういう態度を取る人間は存在すると思う。私はその人を見てなんと思うだろうか。
私はこういうシチュエーションに直面した時に自我を守るために生きている。私は感情を露わにしたりしない。彼はなんと切り出したらいいのか分からないらしく圧し黙ってしまっている。彼は優しいのだろう。そんなだからお互い精神病になったりするんだ。私たちは弱い生き物だ。