ほかほかしっとり

思ったよりほかほか

ゆめ

「おーやってんね。どしたの呼び出したりして。ついにでたの?温泉。まあ呼び出したってことは、そういうことだよね?」

「まあまあ。見ててよこれ。」

「ええっ、出てなくない?そればっかり期待してたんだけど、出てないパターンなわけ?」

「温泉が本来ならここから出てくるんだけどね。ここ。わかるよね?この先っちょね。ちょっとここ見ててね。」

「すんごい湯気というか蒸気でてっけど平気なの?というかなんか機械もヤバげじゃない?」

「温泉全然出なくてさ。予定通りならもうこんな穴掘ってる時期とっくに通り過ぎてるじゃん」

「うん。まあそういう話だったよね。夏の間に掘り当てて、秋の間にはもう出来たら稼ぎ始めるって。」

「そうそう。でもなんでか全然出なくてさ、腹たってたわけさ。で、こないだ休みの日にたまには付きっ切りで掘ってるとこ見ててやろうと思ってここにいたわけよ。でもこいつがガシャガシャガシャガシャやってる風なのを見てるとだんだんイライラしてきてさ、『こんなやってる雰囲気を何ヶ月も誰に対してアピールしてきたんだ。このポンコツは。』ってね。」

「あはは。笑い事じゃないけど、なんか分かるよそれ。」

「ははは、ほんとに?でさ、『俺が直々に設定をいじってやろう』『手本見せてやるよ』って変なスイッチ入ってきちゃって。いじくろうと思ってたけど思うようにいかないっていうか、何も変わってる感じがしなくて。」

「まあそりゃそうだと思うよ。」

「そんで余計イライラしてきちゃって、『これなら分かる』って一番深くまで掘るモードに切り替えてみたわけさ。」

「えっ。そんなモードあるんだ?お前絶対酔っ払ってたでしょ。」

「まあ多少泥酔はしてたね。そしたら今のこの状態になってさ、ほら、見てな。ここ。」

「うわあっ、なんか出てきてるじゃん。全然気付かなかった。蒸気すごすぎ。」

「これまあ、めちゃくちゃ熱いってことは分かるけど、面白くない?俺もこれ出てきた瞬間酔いなんて醒めちゃってさ。なんか地球に対して引いたよね。『お前の内側こんなもん入ってんのかよ』ってさ。」

「これ絶対温泉じゃないことは分かるけど、なんなの?溶岩?でもないよね。なにこれ?中身?」

「まあそうでしょ。地球の中身だよ。」

「現実のこととは思えないっていうか、これはたしかに酔いなんて醒めるね。」

「というか引くよ。エコとかいってさ、地球になんとなく優しくしてやってたけど、中身これって。」

「いやいや。だってまあ、こんなもんでしょ。逆にどんな中身を期待してたのよ。」

「そりゃもう、地上に引っ張りだそうもんなら俺たちなんてひとたまりもないような感じのやつよ。これはまあ触りたくはないけど、この距離で見てても平気じゃん。絶対触んないけどさ、多分触ったってなまぬるいと思うよ。」

「まあそれは大げさにしたってなんだろうねこの情け無い感じ。あとこの無駄なグロさ。威厳は確かにないね。」

「まあそういうわけだわ。ちょっと面白かったでしょ。じゃあ機械戻すわ。」

「これ中に詰まったりしないの?機械壊れそうな感じめっちゃするんだけど。」

「詰まってくれりゃよかったんだけどな。区切りついてさ。詰まりもしないんだよこれ。だから明日からまた温泉探してもらうわ。仕方ないから。」

「そりゃそりゃご苦労なことだね。まあ面白かったし、今日は飯おごるよ。」

「マジ?なんか初めてこれ買ってよかったって思ったわ。サンキュー。」

徘徊放浪彷徨

健康のために道を歩いている老人ほど馬鹿な生き物はなかなかいないと思う。生きる時間を伸ばす為に無駄に生きる時間を使って、何がしたいのだろうか。生きる時間という手段が目的と化してしまっている典型的なパターンであり、人間という生き物の悲哀みたいなものが目に見える形で世の中に顕現した物だと、見かける度に思う。自分だけの道、自分だけの時間でそれをやるならまだしも、人通りの多い時間帯に人通りの多い場所で健気に反射帯なんかを付けて歩いている老人を見るとその余りある浅ましさにこちらまで悲しくなってくる。

とはいえ、若ければいいというわけではなく、若くても腹は立つ。その労力をもっと他に活かせないのだろうか。道行く老人と若者を集めて自分の仕事を手伝わせたら多少早めに終わるというのに。

このばあさん、アホだな。バイトの子を連れてくれば俺が言うこと聞くようになると思ったんだろうな。

「ほら、私たちで藁下ろすから、ご苦労さん」

俺はばあさんの戯言を無視して藁を投げ捨てていく。

「そんな風に投げたって仕方ないんだから。」

俺が下ろした藁をばあさんは拾い集めるが、俺は藁を投げ捨て続ける。拾い集めることに何の意味があるのだろうか。バイトの子は戸惑っている。

「どいてよ。下ろすから。」

という俺の言葉をばあさんは無視する。怒られるといつもこうだ。俺はばあさんの尻に藁を投げつけても無視するのかどうかだんだん気になってきたので、実行してみた。結果ばあさんはそれでも無視を決め込んでいた。

俺は時折ばあさんの尻に命中させながら、藁の束を全部下ろしきった。

「ご苦労さん。あとはもういいから。ありがと。」

というばあさんの言葉を無視し、俺は残りの藁を積みに車を発進させた。

おかん

母親が勝手に自分の部屋を掃除した。実際にやられてみてこんなに気分の悪いものだということを初めて知った。

一体だれに対して見栄を張っているんだろうか。息子である自分だろうか。もしそうなのだとしたらせめて最後までやりきって欲しかった。床などに散らかっていたものを棚や机の上に乗せただけで、この続きは自分の仕事なのか。

自分の人生を否定しつつ、余計な人生観を押し付ける。こういうことはもう二度としないで欲しいのだけど、自分の親なのでそんな要求が通らないことも分かりきっている。

「なんで片付けちゃいけないの!あんな部屋で暮らしてたら病気になるでしょ!どこにしまったらいいか分かんないから残りは自分でやりなさいの!前言ったときからほとんど変わってないじゃない!あんたに任せてたらいつ片付くか分かんないでしょ!文句言うなら自分で片付けなさいよ!あんなんじゃ片付けたって認められないから!」

スクールカースト

我が家は今くらいの時期が一番忙しく、大学生のバイトを雇うなど手段を尽くしてなんとか凌いでいる。たいていの場合、知り合いの知り合いとその知り合い達くらいの人たちが集まるのだけど、そういう人達と一緒に仕事をしていると「ああ、学校ってこんな感じだったな…。」と忙しさ以上にげんなりさせられる。

うちの仕事は私語は自由で、むしろおしゃべりしながらじゃないとやってられないようなところがある。しかし自分はその学生たちとは面識がないので、基本的に黙々と作業しながら嫌でも聞こえてくる会話を耳にすることになる。今シーズンきているのはなかなかに精悍な男の子たちがメインなのだが、会話を聞いているだけでその上下関係がハッキリ分かる。社会の縮図というと大袈裟だが、その世界の理不尽さは聞いていて気持ちのいいものではない。

何が気持ち悪いかと作業しながら1人で考えた結果、理不尽の加害者サイドも被害者サイドも両方とも自分の中に存在しているからなんじゃないだろうかと思った。めちゃくちゃな事を言ってるやつの気持ちも分かるし、言われてるやつがどんな想いをしているかも分かり、それなのに両者が結局快くなれていない状況が気持ち悪いのではないかと思う。彼らのどちらかがもし自分だったとしても何も変わらないだろうと考えてしまうせいで、自分まで気持ち悪くなってしまうんじゃないかと思う。

今日の夢。

海外のホテルに泊まっていたのだが、荷物を根こそぎ盗られてしまった。泥棒にも一抹の優しさが残っていたのか、スマホだけは残しておいてくれた。この時代スマホさえあれば自国には帰れる。しかしそれなら免許証や保険証なんかも置いていってほしかった。再発行にはどんな手続きが必要なのだろうか。あと、お土産の珍品たちはどうするのだろうか。あれは日本人からすると珍しい感じのする品々だろうけど、おそらく犯人は現地人だろう。結構な量のくだらない雑貨があったはずなのだがもぬけの殻だ。まことにご苦労なことである。

真ん中よりちょっと上くらいのホテルに泊まったっていうのに。こんなことになるならもっと安価な宿に泊まるべきだった。あとケチらずにお土産は郵送するべきだった。僕はあれこれ考えているようでその実すっかり上の空になりながらホテルを出た。ホテルの担当者が通訳を従えてあれやこれやと言ってきたが僕は「いいです、いいです。帰ります。」と振り払ってきた。宿泊費がただになったりするのかと思ったらそういうわけではなかったのだ。怒ってると思われてるだろうか。SNSかなんかで悪評をばら撒かれると危惧しているのだろうか。安心したまえ○△□ホテルよ。僕の最後の1日はお土産と一緒に泥棒に盗まれたのだ。僕は早く帰国して、白米を食べて、お風呂に入りたいのだ。異国の外は暑く、上の空にも拍車がかかる。お天気アプリを起動してみると、今日も明日もここは晴れているとのことだった。

他人事

一年ほど前に隣町のほとんど関わりのない農家の息子が自殺したらしい。その農家はたくさんの外国人をお手伝いに入れてて、大規模にある一種類の花を栽培していたらしい。自分は自殺するつもりも予定もないし、詳しい状況など知らないし、境遇も全然ちがうけど、その話を思い出すたびに他人事とは思えない。

ネットをフラフラ見ていたとき、「ニートにありがちな家庭環境は過干渉の母と無関心な父」という特に根拠のない情報を見かけた。正直自分にはあまり当てはまらないし、ニートというわけでもないけどなんとなく「わかるかも」と思ってしまったし、他人事とは思えない。

「ヒモになりやすい男の特徴!」みたいな下世話なウェブニュースを見た。「目標が低い。」「割り勘や、おごられることをなんとも思わない。」などの項目が自分に当てはまっていた。しかしヒモになんてなりたいとも思わないしとてもなれるとも思えない。とはいえなんだな他人事とは思えない。

たった今ニュースで、ハトに餌をあげ続けて逮捕された人のことをやっていた。「自分が餌をあげるのをやめたらハトがひもじい思いをするということなのであげ続けていた。もうしません。」と言って懲役6ヶ月になりそうらしい。これはもう1mmも自分とかぶる部分はない感じがするのだけれど、なんでだろう他人事とは思えない。