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ほかほかしっとり

思ったよりほかほか

カツ丼譚

追想

大学時代は1人暮らしで貧乏な生活をしていた。バイトをしたらバイトがメインになってしまうと思い込み、親からの仕送りに頼っていて、振り込まれる直前は本当にギリギリだった。そういう時は食費を出せないので納豆と卵ばかりを食べて糊口を凌いでいた。

 マッチ売りの少女は寒さに耐えかねてマッチを擦り、ご馳走などの幻想を見ていたが、自分が飢えた時に見た幻想はカツ丼だった。卵たっぷりのジューシーなカツ丼が、自分にとって恵まれた生活を象徴する食べ物だったのだ。

 特別にカツ丼が好きな食べ物だというわけではない。普段食堂などに行っても、カツ丼を頼んだりはしない。しかし味気ない同じような食べ物をずっと食べていると、スーパーなどで見かけるカツ丼は一際眩い輝きを放っているように見えた。

 今は実家にいてとりあえず食べるものには困らないが、もし再び貧乏な生活が始まったら、まとまった収入が入る度に自分はまずカツ丼を食べるのだろう。