ほかほかしっとり

思ったよりほかほか

事実

今、目の前で転校生が血まみれで死んでいる。転校生と呼んだが、こいつが転校生だったことは今思い出した。要するに他所者だ。この村のしきたりを知らなかったのだ。

そのしきたりというやつも、率直に言って今思い出した。たしか小学校の頃に社会科で村の賢いお爺さんの話を聞いて回った時に聞いた気がする。いや、もしかしたら中学の入学式で校長がそんな演説をしたのかもしれない。とにかく幼い頃からここに住んでいれば、転校生のような行動はとらなかったはずだ。

どんなしきたりなのか説明したいが、それも上手くできない。詳しく説明すると細かいところを間違うかもしれないし、どこまでが本当でどの部分が迷信なのかも確信は持てない。とりあえず、いざというときは何もしないのが正解だということだけは言える。転校生は声を上げ、走り、逃げた。そのどれがNGだったのか分からないが、昔からここに住んでいた同窓生は皆じっと動かずにやり過ごしていた。そう、その時が来てしまったら誰も転校生を助けることなんて出来なかったのだ。

転校生は中学時代に都会からきた。そして今も都会に住んでいる。そして、そう言う僕も今は都会に住んでいる。今日はちょっとした同窓会だった。こんなことになるなんて誰も想像していなかった。

ほかの皆はどうか分からない。しかし僕は初めて「田舎に生まれてよかった」と、この瞬間に思ってしまっていることを白状したい。転校生に恨みはない。彼はいいやつだ。ただ都会に生まれてしまっていた。それが彼の命を奪う結果になった事だけが事実なのだ。