ほかほかしっとり

思ったよりほかほか

ふげ

僕は時折幻聴を聴く。悩まされているというほどではないが、大袈裟に言えば歯に何か挟まっているようなスッキリしなさを常に抱えて過ごしている。とはいえ生活に支障をきたすようなレベルの騒音では当然なくて、簡潔に言ってしまえばたまにカウベルの音が聴こえるのだ。

この症状は就職してから、しかも仕事中に限るものなのでストレスによるものだということは自分の中で解明済みである。そんなに辛い仕事でも、辛い職場環境でもないのだが、それでも働くということ自体に僕はストレスを感じてしまっているのだろう。カウベルの音色はそんな風に僕の甘さを指摘してきているように感じる時もある。

しかし3年以上続いていたこの問題が、ある日突然急展開を迎えることになった。それは突発の飲み会の席で発覚した。なんと、先輩の中にカウベルの音を口から鳴らしてしまう癖のある人がいたのだ。

その事を知った時の僕の喪失感といったら、おそらく誰にも分かってもらえないのではないだろうか。なんだその真相。僕とカウベルは、僕の中でもう共存関係を構築しつつあったというのに。これからその音色を聴いたところで「ああ、あの先輩が近くにいるのか」くらいのことしか思わなくなってしまうではないか。

それからしばらく僕は、カウベルの音を聞くたびになんだか興を削がれるような感覚に陥るのであった。