ほかほかしっとり

思ったよりほかほか

僕アンチ

僕の中には別人格が1人いる。僕はそれを中学生の頃に見つけ、『僕アンチ』という名前を刺されにつけた。

名前をつけたのは中学生の時なのだが、小学生の頃もそいつはいた気がするし、いつからいたのかは定かではない。もう中学校も高校も卒業したが、僕アンチはまだ僕の中に存在する。これから僕アンチの特徴を説明しようと思う。

僕アンチは僕の中にいる別人格だが、多分別人格という表現は間違っている。僕の身体はいつも僕自身のものであり、僕アンチにのっとられたことはおそらく1度もない。

僕アンチはタイミングを見計らって時折僕に囁きかけてくる存在だ。彼には僕の考えていることが分かっているようなのだが、僕は彼が何を考えているのか見当もつかない。

では、僕アンチはどんなことを話しかけてくるのかという1番重要なことを説明しようと思う。それを説明すれば彼の存在が1番分かってもらえると思う。

端的に説明すると、たとえば僕に幸運が訪れ、あとはそれをこの手に掴むだけになった時に彼は現れるのだ。そして毎回決まって「ほら、よかったじゃないか。さあそれを掴めよ」と僕に言うのだ。

具体的に言うと、今の僕の彼女に告白されたときや、両親のつてで就職が決まったときには確実に出てきた。さらに小さいことでいうと、食堂に入って美味しそうな期間限定メニューをみつけたときなんかにも「お前はそれ絶対好きだろ。さあ、早く頼めよ」みたいなことも言ってくる。

小学生の頃は、僕は僕アンチのことを多分味方だと思っていた。しかし中学生になったら鬱陶しい邪魔者だということに気付いて僕アンチなんて名前をつけたんだと記憶している。

僕アンチがいるせいで僕は当たり前の幸福を素直に享受することが出来ず、日々非常にモヤモヤしている。そして長年僕アンチと一緒にいたせいか、僕アンチが現れるより前に僕アンチの言いそうなことを自分で考えてしまうようになってきている。

もし万が一僕アンチが僕の中から消え去っても、僕アンチの残滓が僕の中に残ると思うとどんな幸せな未来が待ってようと僕の気分は晴れない。