苦しみテスト
「お前、またきたのか。今度はどんな見当違いを持ってきたのか、こちらももう見当が付かないぞ。」
「まあまあ聞いてくださいよ。持ってきましたよ新しい苦しみ。」
「どんなものだ。聞くだけ聞いてやろう。」
「どんなものって言うのはちと難しいんですがね。たとえば新しく知ること、ってあるでしょう?釣りの仕方だとか、勘定の仕方だとか。」
「ああそうだな。それが人間様の特権ってやつだ。」
「はい。ただ人によって、どうしたって出来ない。何回教わっても無理。ってことって何か1つはあるもんでしょう。」
「ふむ。言われてみるとまあ、そうかもしれんな。とすると、それがお前が今回持ってきた苦しみってことか?」
「いえいえまさか。そんなチャチな苦しみを持ってくる私じゃございませんよ。まあ聞いてください。そう考えていた時に私気づいちゃったんですよ。」
「ほう、これは面白そうな話じゃないか。何に気付いたって言うんだ?」
「人間は学んでいると勘違いしているだけで、実のところただ思い出してるだけなんじゃないかってね。それに気付いちまったとき、私の心はキュッとなったわけですよ。そこで理解したわけです。ああ!これが苦しみかってね。」
「……。
お前は毎度、とんでもない苦しみを持ってきてくれるな。俺個人として、そこは評価しよう。あっぱれだ。
しかし、そんな苦しみを持ってこられてもお前をこの村に入れることは叶わないんだよ。俺にも立場ってもんがある。悪く思わんでくれ。」
「そうですか。いやいや、見当違いな与太話をしっかり聞いていただけたことに私は感謝しなきゃいけねえ。今日も長々とすいませんでしたね。」
「ああ。また来いよ。」
「はい。」
その帰り道、彼は他の村の男からこっそりと正解を教えてもらった。彼は帰ってからその苦しみを早速試してみることにした。彼の心は背徳感と期待で高鳴っていた。
しかる時間が経ったのちに彼が目を覚ますと、なんと体が動かなくなっていた。
彼は、それでも正解が分からなかった。分からないまま死ぬことをただちに悟った彼は「これが正解なのだろうか?まさかな。」と、1人心の中で自嘲した。