ほかほかしっとり

思ったよりほかほか

グラグラ

目覚めると僕はまず、酷い頭痛と倦怠感の只中に自分がいることに気が付いた。「お前は昨日不良に袋叩きにされて気を失ったんだよ。」と事情を知っている風の誰かに言われたなら今の僕はすんなりと信じてしまうだろう。頭はガンガンというかジンジンというか、そんな感じがするし、どことは特定できないが体も鈍痛がするような気がするし、少し寝小便でもしてしまったのだろうか、局部周辺にも嫌な違和感がある。とりあえず水をコップ一杯飲んだが、ただの水道水がこんなに美味しく感じることがこれからの人生であるのだろうかというくらい美味しかった。

いろいろと僕もやらなきゃいけないことはあるのだけれど、このような状態では仕方がない。今日は一日かけて病院に行くこととしよう。

「おいおい兄ちゃん、しっかりしてくれよ。」気付けば次の瞬間、僕はバスの運転手に怒られていた。病院へ行く唯一の手段であるバスにフラフラと乗った僕は、どうやら財布を忘れていたようだ。

「今回は大目に見るけどよ。その代わりにこの薬を中条のじいさんに届けてくれねえか。そしたらバイト代ってことで、運賃は建て替えといてやるよ。」

中条のじいさんの家はこのバスでは通れないような狭い道の先にある。歩いてあそこまで行くとなると1時間近くはかかるが、僕に断るという選択肢は残されていないのだろう。病院は今日は諦めるしかないようだ。僕は薬を受け取るとバスを降りてトボトボと歩き始めた。寝起きのときよりは体調もいいし、この分なら問題なくミッションはこなせそうである。

「早くお前結婚でもして、お前のばあちゃん安心させてやってくれや。そうでもしないとあのばあちゃん、おちおちあの世にも行けないじゃねえか。」

気付けば僕は中条のじいさんに昼飯を振舞われていた。中条のじいさんはとても薬がいるとは思えないような饒舌ぶりで、さっきから笑っている。次はそろそろ自分の若い頃の武勇伝でも聞かされるのではないだろうか。とはいえ昼ごはん代も浮いたわけだし、無駄話に付き合うくらいなら僕もやぶさかではない。

「それはそうと駄賃やるから、ちょっと裏の林の手入れしてくんねえか。」

気付けば僕は村の林業組合の人たちの飲み会に紛れ込んでいた。

「中条のじいさんも無茶言うよなあ。お前もボーッとしてるようで大変だな。ほら。遠慮せずに飲めよ。飯もあるから、食ってけ食ってけ。」

気付けば僕は朝も乗ったバスから降りて、ガードレールの向こう側の崖の下にさっき食べた物や飲んだ酒を吐いていた。今日もなんやかんやで疲れたな。あとはもうベッドに潜り込んで寝ることしか僕には考えられない。