ほかほかしっとり

思ったよりほかほか

cnpk

本屋で僕の彼女に出会った。彼女は僕がいるのに気付いてもいないのに優雅で、僕の知らない本を買っていた。彼女は僕と会っている時となんら変わらない。その事実が僕をこんなにも打ちのめしている現実に驚いているのもまた僕だった。僕は彼女といる時間を、僕と彼女の化学反応だと思いすぎていたのかもしれない。しかし彼女は本当に、僕のいない時も生きていた。

勘違いしないでほしいのだが、僕は彼女の普段の生活についての話を聞くのは大好きだ。彼女がどんなものに出会い、どんな風に感じたのかを聞くだけで、短いおとぎ話を聞いているような浮遊感を感じていた。問題はそのノンフィクションが、本当にノンフィクションだったということなのだ。僕は彼女に別れを告げなければいけなくなってしまった。

僕の彼女は僕の有無に関わらず存在していて、彼女が買った知らない本も知らず知らずのうちに存在し、その作者も存在していて、その作者にはその作者の人生がかつて存在していて、この不意な瞬間にそれらと僕は事故のように混濁してしまった。それがこんなにも気持ちの悪いことだなんて、僕自身たった今初めて気付いた。

彼女は分かってくれると思う。残念がったりもするかもしれない。そのことを想像すると僕の心は締め付けられ、また途方も無い無力感、現実の圧倒的な強さにただただ打ちのめされるのであった。