死に方もインド的
照りつける日差しだけは一人前に熱くなってきた。新しい畑の段取りをボチボチ始めなければいけなくて、正直に言うとダルい。日差しに比べたら風はまだ涼しい感じもするので、今のうちに段取りした方がいい事は確かなのだろう。もたもたしていたらそのうち風も温風になってしまう。
私が重い腰を上げあぐねていると、自転車に乗った老人が近寄ってきた。50代後半くらいだろうか。色黒でメガネをかけていて白髪。服装からするとなんだかインド人っぽい雰囲気だが、人相からして日本人だろう。老人は無感情ながら小刻みに震えた声で話しかけてきた。
「日赤はどこでしょうか。」
「日赤?全然この辺りではないですよ。そこ右に曲がって真っ直ぐ行ったら運動公園があるでしょう。そこを左に曲がって住宅公園についたら右に曲がって、そこを真っ直ぐ行ったところです。」
「ありがとう。」
次の日も私はその老人に同じ場所で話しかけられた。
「日赤の行き方をもう一度聞いてもいいですか。」
「運動公園は分かりますよね。」
「はい。」
「運動公園を左に曲がって、住宅公園のところの交差点を右です。」
「ありがとうございます。」
「大丈夫ですか?車で乗せて行きましょうか?」
「ありがとうございます。大丈夫です。」
老人は次の日も私の元へきた。
「運動公園から住宅公園まではどのくらいの距離でしょうか。」
「まあそこそこありますね。住宅公園のところの交差点はあれですよ。市場みたいなのがありますよ。あのりんごのでっかい絵が描いてあるとこ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「気をつけてくださいね〜。」
翌日ついに老人は私のところへ訪れなかった。
「結局日赤には辿り着けずに死んじゃったか。だから載せていくって言ったのになあ。」
もう畑の段取りも出来ているので、私は今日はもう帰って昼まで休むことにした。