ほかほかしっとり

思ったよりほかほか

土手猫

道を渡って土手の方に行こうとしている猫がいた。渡りはじめていたのだが、自分の運転する車が通ったせいで元の茂みに引っ込んでしまった。自分はそのまま少し走ったところに車を停めたので、猫が土手に行くのを期待してずっと後ろを見つめていたがいよいよ猫が道を横断して土手へ行くことはなかった。きっと自分に邪魔をされたことによって目的地自体が変わってしまったんだと思う。自分がその道を通らなければ、猫は誰にも邪魔をされず当然のように土手へ行ったのだろう。だが邪魔をされてまで行きたい用事というのはなかったようだ。

あ、あー。ここはもうそういう場所で確定完了なんですね?

私は生まれた頃からおばあちゃんから、ここは「◯△◻︎」という地名だよって聞いてて、キレイで可愛いなぁって、ステキだなって思ってたんだけど、結局いじめっ子達の言う通りだったんですねえ。

しかもここはもう大きい道路通るから住めないと、そりゃそうですよねえ、意地で無理やり住んでもいいけど騒音どころじゃありませんもんね!だってここが道になるんですもん。

今ののどかな風景から見たら想像もつきませんが、そんな冗談つく人たちには見えませんし、そうなるんでしょうね。

いえいえいえいえそんなそんな、私は反対じゃありませんし、悲しんでもいませんよ。感情でいうなら、なんだろ、強いて言えばまあ怒りですかね!おばあちゃんに対しても、自分に対しても!

ここから、ここが道になるんでしたっけ?じゃあここのスペースならまだ寝れたり〜、、、なんて!あはは、え?冗談に決まってるじゃないですか!ちょっとくらい笑ってくれても良くないですか?

山海

今そこそこの尿意を催している。実際にはしないが立ちションがしたい、野に放ちたい。なぜかは分からないがこんなに野に放ちたい尿は初めてなので記念に我慢している。そしてついでなので久しぶりに考察している。

自分は山に囲まれて育った人間なので、理想はやはり山だと思う。子供の時分、山に放ったことは多分あるので今回も上手くできると思う。跳ね返りが危惧されるので岩場というよりは茂みがいいと思う。贅沢をいえば少し高いところから下方に放つのがいい気がする。ただ高すぎるのは怖いので崖というより傾斜くらいの感じの方が堪能できるだろう。

山ばかり考えていたが海に放つのがどんな趣なのか気にならないわけではない。イメージは出来るが海に馴染みがないので想像の域を超えない。機会があれば是非試してみたいがあまり前のめりにはなれない。やはりまずは山だ。

単純に海と山で考えていたがひょっとしたら他の可能性もあるんだろうか。「汚したい」みたいな背徳的な欲求ではないので自然に限られてくるが、どうだろう。たまにはインフラに組み込まれず自然と一体になりたいという純粋な気持ちなので尊重してほしいものだが、手頃な山も知らないし外も暗いので機会的に排泄してこようと思う。

資本主義

「あのさ〜、まだ始めてないわけ?」

「は、はい」

「あんたいくつ?もう30になるんでしょ?」

「27です……」

「一緒でしょ?そんな歳にもなってね〜。周りはもうみんなもうやってるでしょ」

「ま、まあ大体は、そうですね」

「ほら〜そうでしょ?あんたもいい歳なんだから、やりなさいよ早く」

「でも、マルチ商法でしょ……」

「それを悪い意味で捉えてるのなんて、今時あんたくらいよ?なに?なんかの思想にでも染まってるわけ?」

「いえ、特には……」

「じゃあなんで始めないのよ」

「先に始めた方が得するじゃないですか……」

「それを分かっててずっと始めなかったあんたの自己責任じゃない?この歳になるまで何してたわけ?今からでもやっといた方がいいわよって。親御さんもその方が安心するでしょう」

「それはまあ、そうかもしれないですけど……」

「そうでしょう?何を強がってんのよ。まあ私もう帰るけど、次会う時までに始めんのよ!いいわね!」

「ま、まあ、考えておきます」

 

 

「ってことがあったんだよ!」

俺は昔からの親友と飲んでいる。

「あはは、いるねえ。そういうおばさん」

「あんなばばあに言われて始めるやついないっつうの!」

「そりゃそうだわな」

「そう言うお前もやってんだろうが!こら!」

「ま、まぁそうだけどさ。事情というか、アレが違うじゃん」

「まあな、お前んちは親がこの辺の幹部だもんな」

「そうそう。俺がお前だったら、俺だって反抗するさ」

「反抗してるわけじゃないわい!胡散臭いから嫌なだけだよ。なんかいいことあんのかよ?」

「まああれだな。とりあえず彼女はすぐできると思うわ。簡単に」

「あーあー。まあそうだろうな。頭空っぽの女がすぐ捕まるだろうな!」

「わはは。俺の立場なら怒らなきゃいけないんだろうけど、実際そうだからなんも言えねーわ」

「だろ?女の方がすぐ始めるもんな。女なんてもう約9割入ってんだろ?」

「それはあれだろ。二十代?だろ?たしか」

「まぁなんだっていいけどさ、そんなんで彼女できて嬉しいもんかね?あー、まあ嬉しいか。嬉しいよな!そりゃ!」

「酔っ払いだな〜。まあ傷心みたいだし今日はお前千円でいいよ」

「おっ、さすが幹部!言ってくれるね〜」

「任せとけよ」

「俺が始めたら優遇してくれよな!」

「あはは。出来る範囲で協力させてもらうよ」

成立

自分の身の回りにはこどもの頃から「成立している」事柄がほとんどなかったような気がする。田舎ではありがちなことだと思うが万事が済し崩し的であったり、惰性や妥協の産物だった。

「世の中そんなもんだ」と思う人もいるかもしれないが、それは現状に満足している人だと思う。自分の身の回りのものやことは、なにひとつとして満足はしていない。逆にいえば不満を抱えながら不安定な状態を保っていた。

数式は完成されている。=の左右は同じもので、それなのにその式にはしっかりと意味がある。自分はそういう数式の完璧さに憧れて理系に進んだのかもしれない。今日そんなことを思った。

ゆめ日記

さきほど僕が歩いている土手の下を覗いてみたら大きめの蛇が這っていた。近付くわけなんてないが、おそらく僕はあれに勝てないだろう。あの堂々とした這いぶりからして、毒とかの勝算を持っているに違いない。

人間に出会えることに期待なんてしていないんだから野生の動物もいなくなってくれよ。なんて理屈の通らないわがままが脳に浮かび続ける。生きて帰れないとかそんな極端な話ではないだろうけど、なんでみんな外に出かけないのかよく分かった。ここでは死がしっかりとした存在感を発揮している。

 

「どんな動物に出くわしたら一発で詰むだろうか」

頭の中で考えるのはそればかりであったが、いよいよ面倒臭そうな動物に僕は遭遇した。

 犬、たぶん犬だ。白くて丸っこくて枕くらいの大きさで、確実に僕に敵意を抱いている。しかし噛もうとはしてこず、ひたすら突進してくる。僕がかわすとなぜか土手の下を回り込んで、また僕から見た土手の前方に戻ってから突進してくる。それが、2匹いる。

わからないのだが、多分こいつらの突進が直撃しても別に死にはしないと思う。ただこいつらの僕に対する敵意の明確さにはたじろぐ。何か彼らにしただろうか。それと、次々と突進してくる為、なかなか落ち着いて「一旦作戦会議」という状態にはさせてくれない。僕もにわかに疲れてきたので、結局泥臭く戦うことにした。

 

突進してくる犬の脇腹をすれ違い際に蹴飛ばすのは思った以上に難しい技だった。しかし5回目くらいのチャンスで僕は成功させた。やはり生きている犬だけあって思っていたよりは重く、思っていたよりも飛ばなかった。しかし相手コンビの戦意を無くす程度の効果はしっかりあったらしく、僕は突進の千本ノックから解放された。

「もしかしたら案外野生の世界でも生きていけるのかもしれない」本心からは思ってもないことを、僕は1人で歩きながら考えていた。

僕アンチ

僕の中には別人格が1人いる。僕はそれを中学生の頃に見つけ、『僕アンチ』という名前を刺されにつけた。

名前をつけたのは中学生の時なのだが、小学生の頃もそいつはいた気がするし、いつからいたのかは定かではない。もう中学校も高校も卒業したが、僕アンチはまだ僕の中に存在する。これから僕アンチの特徴を説明しようと思う。

僕アンチは僕の中にいる別人格だが、多分別人格という表現は間違っている。僕の身体はいつも僕自身のものであり、僕アンチにのっとられたことはおそらく1度もない。

僕アンチはタイミングを見計らって時折僕に囁きかけてくる存在だ。彼には僕の考えていることが分かっているようなのだが、僕は彼が何を考えているのか見当もつかない。

では、僕アンチはどんなことを話しかけてくるのかという1番重要なことを説明しようと思う。それを説明すれば彼の存在が1番分かってもらえると思う。

端的に説明すると、たとえば僕に幸運が訪れ、あとはそれをこの手に掴むだけになった時に彼は現れるのだ。そして毎回決まって「ほら、よかったじゃないか。さあそれを掴めよ」と僕に言うのだ。

具体的に言うと、今の僕の彼女に告白されたときや、両親のつてで就職が決まったときには確実に出てきた。さらに小さいことでいうと、食堂に入って美味しそうな期間限定メニューをみつけたときなんかにも「お前はそれ絶対好きだろ。さあ、早く頼めよ」みたいなことも言ってくる。

小学生の頃は、僕は僕アンチのことを多分味方だと思っていた。しかし中学生になったら鬱陶しい邪魔者だということに気付いて僕アンチなんて名前をつけたんだと記憶している。

僕アンチがいるせいで僕は当たり前の幸福を素直に享受することが出来ず、日々非常にモヤモヤしている。そして長年僕アンチと一緒にいたせいか、僕アンチが現れるより前に僕アンチの言いそうなことを自分で考えてしまうようになってきている。

もし万が一僕アンチが僕の中から消え去っても、僕アンチの残滓が僕の中に残ると思うとどんな幸せな未来が待ってようと僕の気分は晴れない。